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『狼たちの午後』追いつめられた銀行強盗の行く末は?

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今回紹介する映画は1975年にアメリカで公開、日本では1976年に公開された『狼たちの午後』です。

 

監督は シドニー・ルメット。他には1957年の『十二人の怒れる男』や1982年の『評決』など様々な作品で監督をしています。 本作は実在の銀行強盗事件を題材にした映画で、実行犯のソニーを演じるのはアル・パチーノ。もう一人の実行犯をジョン・カザールが演じ、ソニー達と交渉する警察の人間をチャールズ・ダーニングが演じています。

 

ここからは本作の概要やあらすじについて簡単に説明していきます。

 

舞台は1972年8月のニューヨーク州ブルックリン。もう始業時間も終わりを迎えるころ、三人の男たちが小さな銀行に入店する。彼らは銀行強盗で狙いは金庫にあるはずので大金だ。ところが、計画は初めからうまくいかない。仲間の一人ロビーは、いざ実行となった際に怖くなってしまい早々に銀行から逃げ出してしまう。しかも金庫の金はすでに別の場所に移されており、中にあるのはわずか1100ドルほど。おまけに銀行はいつの間にか大勢の警察官に取り囲まれ、ソニーとサルは逃げ道を失ってしまう。二人は中にいた銀行員たちを人質にとり、逃げるための交渉を始めるのだった。果たして二人は銀行から抜け出せるのだろうか?人質の運命やいかに?

 

次にこの作品を観て思った感想や、考察を書いていきます。

 

※ここからはネタバレアリなのでよろしくお願いします。

どこか間抜けな銀行強盗をアル・パチーノが好演 

本作がまず実際にあった事件を基にしてるっていうのが驚きですよね。金庫に金がないとか、すぐ警察呼ばれちゃうとか、怖気づくような奴仲間にするとか計画がずさんすぎなんですよ。銀行強盗って作品によっては人が死んだりするし、結構シリアスな感じで取り扱われることも多いんだけど、本作に関してはゆるいというか正直ニヤッとしてしまいました。

 

そんでアル・パチーノが演じるソニーもどこか抜けてるんですよね。銀行強盗の中には人質が騒いだりしたら有無を言わさず撃ち殺すみたいな残酷な人もいますが、ソニーはそんな残酷さは持ち合わせてません。かといって、すごく頭がよくて警察との交渉も上手でみたいな切れ者というわけでもない。おまけに「何でこいつら仲間にしちゃったの?」みたいなやつらを仲間にしちゃう、銀行強盗としてはダメなタイプの人です。

 

でも、やっぱりそこはアル・パチーノなんだよね。派手な銃撃戦や逃走劇があるわけでもないし、ほとんど銀行とその周辺だけで話が完結してるんだけど、彼の存在によって飽きないんですよ。彼が銀行の外に出て聴衆の前で警官と交渉したり、実の妻や結婚相手(ソニーはゲイで妻とは別に結婚相手がいた)と電話をしてる場面とか、見入ってしまいます。ちょっと間抜けな役を演じててもアル・パチーノはやっぱりいいです。

 

アメリカン・ニューシネマの作品として

アメリカン・ニューシネマというのは、反体制的な人が体制にはむかったり、刹那的に人生を生きる様子を描かれるものが多いのですが、1960年代後半から1970年代前半のアメリカではこういう映画がすごく多くなるんですね。それはなぜかというと、アメリカが参戦したベトナム戦争の実態があまりにもひどかったから。それによって、国民は政府への信頼を失いヒッピーになったり、反体制派になったりしていったわけです。その流れで生まれたのがアメリカン・ニューシネマと言われています。(アメリカン・ニューシネマは和製英語みたいです。)大体、ラストが暗い感じで終わるのも特徴ですね。

 

本作『狼たちの午後』は一見すると間抜けな銀行強盗の話に見えるんだけど、実はベトナム戦争の影がちらつくんですよ。というのも、銀行強盗のソニーもサルもともにベトナム帰りなんです。

 

ベトナム帰りの男が主人公の映画というと、ロバート・デ・ニーロがタクシー運転手トラヴィスを演じた『タクシードライバー』があまりにも有名ですね。トラヴィスはベトナム戦争の影響で不眠症になって、まともな仕事に就けず夜寝なくてもいいタクシードライバーになったわけですけど、当時ベトナム帰りの兵隊の中には帰ったはいいものの仕事もないし、それこそ精神や肉体にダメージを負って仕事ができない状態になっちゃう人もいたわけです。

 

『狼たちの午後』のソニーはトラヴィスほど顕著ではないにせよ、やっぱり精神的に不安定だし、サルも何を考えているかわからないしちょっと危ない雰囲気を漂わせてます。何より彼らはお金がなくて銀行強盗をしたわけですけど、なぜ金がないのかというと、戦争から帰ってきてもまともな仕事につけなかったっていうのがあるのではないかと思います。

 

アティカの意味とは?

劇中、ソニーは銀行の周りにいるやじ馬に向かって「アティカ!アティカ!」と連呼します。その掛け声を受けて聴衆がウォーってわくんですよね。これ、最初「何でこの人たちは歓声をあげてるんだろうか?」って思ったんですけど、調べてみると1971年に起きたアティカ刑務所で実際に起こった暴動をやじ馬たちに想起させようとしているみたいです。この事件では刑務所内での扱いがかなりひどかったため、囚人たちが暴動を起こして警官たちの銃撃によって人質や囚人に多くの死傷者が出ました。


ソニーもこの場面では警官に囲まれ銃を向けられていますから、アティカ!と叫ぶことで警察に発砲されないようけん制の意味を込めていたのでしょう。また、警察などに不満を抱えていたやじ馬たちを煽ることで、自分はそちら側の人間なんだと思わせようとしたのかもしれません。

 

まぁ、これは物語中の演出だとは思うんだけど、見事に反体制的なメッセージを表してる場面だなと思いました。

 

まとめ

今回は『狼たちの午後』を紹介してみました。

 

内容は割と地味なので、派手目の映画を観たいという人にはビミョーかもしれません。でも、地味な物語の中で描かれる人間の心理的な部分、アル・パチーノの表情や演技、また社会的な背景も含めてみるとまた一段と味わい深い作品なのではないかと思います。興味がある方は是非ご覧になってみてください。