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『グリーン・ブック』黒人ピアニストと白人運転手の旅が教えてくれるもの

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世界には様々な差別があります。少し前にはアメリカで行われた「ブラック・ライブズ・マター」(アメリカで黒人への差別や暴力への抗議運動)が記憶に新しいですよね。人権意識が高まり、世界のリベラル化が進んでいるとはいえ、まだまだ差別は根強く残っているのだと思います。

 

直接的であれ間接的であれ、そうした差別を描いた映画は数えればキリがありません。近年の黒人に対する差別を描いた作品であれば、スパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』(2018)ジョーダン・ピール監督の『ゲットアウト』(2017)はとても印象的でした。また、現在はディズニーの傘下にあるマーベルにおいても、『ブラックパンサー』(2018)では、黒人ヒーローを主役にすることで、差別に対する抵抗の意志を表現していると考えられます。

 

さて、今回紹介するのはこうした過去作と同じく、僕の心に深く残るものとなりました。その作品は『グリーン・ブック』です。

 

簡単な作品情報

本作は2018年の作品です。監督はピーター・ファレリー。アメリカ南部への演奏ツアーを行う黒人ピアニスト、ドン・シャーリー役にマハーシャラ・アリ。シャーリーに運転手として雇われたイタリア系白人トニー・“リップ”・ヴァレロンガをヴィゴ・モーテンセンが演じます。

 

本作は第91回アカデミー賞で、作品賞、助演男優賞、脚本賞を受賞しています。

 

あらすじ

1962年のアメリカで物語は始まります。トニー・“リップ”・ヴァレロンガ(以下トニー)は、ニューヨークのナイトクラブで用心棒をしていました。ところが彼が働くクラブが改装工事のため閉店。トニーは新たな仕事を探すことになります。

 

そんなある日、トニーは黒人ピアニストのドン•シャーリー(以下、ドン)と面接をすることになります。ドンは8週間かけてアメリカ南部の音楽ツアーを行うにあたって、運転手を探していました。

 

ドンに雇われたトニーは、彼と共に南部のツアーに同行します。そこで、彼が目にしたのはドンの尊敬に値する素晴らしいピアノの腕と、そんな彼が直面する差別の数々だったのです。

 

※ここからはネタバレありです。

音楽ツアーは黒人差別をめぐる旅だった

この物語は1962年にアメリカの南部を旅する黒人と白人の音楽ツアーを描いたものであると既にお伝えしました。彼らの旅を通じて、観ている僕らも黒人たちが受けてきた差別を追体験することになります。

 

この作品を見る上で、一つ頭に入れておきたいのはジム•クロウ法です。ジム•クロウ法とは簡単に言えば、アメリカ南部のいくつかの州にあった人種差別的な内容が含まれた法律の総称です。1876年から公民権法ができる1964年まで存在しており、その内容は州によって様々ですが、州によっては黒人は白人と結婚してはならなかったり、学校も白人学校と黒人学校で分けられたりといった差別を認めるものだったんですね。

 

時代を遡り1861年に始まったアメリカ南北戦争では、「奴隷制廃止」を掲げた北部と、「奴隷制存続」を掲げた南部が衝突し、国を二分するような争いになった経緯もありました。特にアメリカ南部では黒人に対して差別的な考えを持つ人や、そうした価値観が根強く残っていて、それがジム・クロウ法の成立に繋がったと考えられています。

 

ドンとトニーが南部のツアーに出かけたのは1962年です。なので、まだ州によっては合法的に黒人を差別する地域もあるわけですね。20世紀に入ってすら差別はなくならず、アメリカの黒人たちは警官に不当な扱いを受けたり、時には命を奪われたりしているわけです。

 

現在のように、表向き差別が認められていないような社会ですらそうなのに、当時のように人種差別が合法的に認められていたような地域を旅するのが、どれだけ恐ろしいことか想像できるのではないでしょうか。

 

案の定、南部へのツアーの最中、トニーはドンや黒人たちが受ける差別を実際に目の当たりにします。ステージ上では素晴らしい旋律を奏でるピアニストであっても、ステージを降りればドンは黒人としてみなされます。招待主は南部の白人たちです。彼らはドンがいくら人を感動させるような演奏をしても、ステージ上では主役であっても、黒人というだけで露骨に差別をするんですね。

 

ある場面では、演奏を終えたドンが「紳士用」と書かれた屋内のトイレに入ろうとすると、使うのを止められてしまいます。彼が促されたのは、屋外に建てられたみるからに粗末なトイレなんです。黒人は屋内のトイレで用を足すことすらできない。ヒドイですよね。

 

ある州では、ドンとトニーが夜間に車を走らせていると警察官に停められます。なんと、「黒人は日没後に外出するのが違法」という理由で捕まってしまうんですね。なんだそりゃ、という話ですが、こういう差別が行く先々で当たり前のように起きます。旅を通じて黒人そのものへの差別意識が少しずつ減っていたトニーからすると、「なんなんだこれは」と戸惑ってしまうわけです。

 

こうしたトニーの戸惑いは、当たり前だと思うんですよね。ただ、黒人というだけで不当な扱いを受ける。その人自身はなんら悪いことすらしてないのに、外のトイレを使わされ、夜間の外出を禁じられ、演奏を行う会場のレストランの利用を禁じられる。なぜかと聞けば「土地のしきたりなんです」とか言い出す始末。これが逆の立場だったら、どう思うのか。この作品を見ていると、差別がいかに馬鹿馬鹿しいものなのかを再認識します。

 

差別や偏見を乗り越えるヒント

この作品に描かれるトニーとドンの旅の中に、差別を乗り越えるヒントがあると僕は思います。それは「差別や偏見の対象と実際に接する」というものです。

 

偏見や差別はなぜ起こる?」(ちとせプレス、2018年)という本には、偏見を是正するための方法として「接触仮説」が紹介されています。これはかなりざっくりいうと、対象となる人と接触することで偏見をなくせるかもしれないという仮説です。偏見というのは、相手に対して抱いた勝手なイメージだったり、決めつけですよね。

 

でも、接触回数が増えれば、相手を知る機会が増えます。相手を知ると「〇〇だから〇〇に違いない」といったイメージが「あれ?何か思ってたのと違うじゃん」と気づき、それが自分の中の偏見の是正に繋がっていくというわけですね。

 

実はトニー自身、ドンと出会うまでは黒人に対して少なからず偏見や差別意識を持っていました。(自宅に来た黒人作業員が触れたものを捨てるなど)だけど、実際にドンと南部への音楽ツアーに出かけ共に過ごすうちに、ドン個人に対しての理解を深め友情を育んでいきます。そうして、最終的には黒人という大きなくくりではなく、ドン・シャーリーという1人の人間と向き合うことができたんです。実際に接触し相手のことを知ったから、偏見の是正につながったんですね。

 

こうした人種の問題に限らず、僕らは大なり小なり何かのカテゴリーに対して、「〇〇に違いない」といった偏見を持っていると思います。大事なのは、まず「自分も誰かに対して差別意識や偏見を持っているかもしれない」と意識することです。その上で、実際に対象と接し、知ろうとしてみる。トニーとドンが人種の壁を乗り越えたように。

 

まとめ

今回は『グリーンブック』という作品を紹介してみました。本作は史実に基づいた作品ですが、遺族からの抗議があったり、アカデミー賞受賞に関して、多くの賛否を呼んだ作品です。

 

アカデミー賞作品賞「グリーンブック」が直面した遺族からの抗議 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

「グリーンブック」の作品賞受賞に異論噴出 米アカデミー賞 - BBCニュース

 

ただ、個人的に僕はこの作品で心を動かされましたし、学ぶところがとても多い作品だったので紹介させてもらいました。興味がある方は是非一度ご覧になってみてください。

 

 

参考サイト、書籍

作品賞は『グリーンブック』!最多は『ボヘミアン・ラプソディ』:第91回アカデミー賞|シネマトゥデイ

アカデミー賞作品賞「グリーンブック」が直面した遺族からの抗議 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

「グリーンブック」の作品賞受賞に異論噴出 米アカデミー賞 - BBCニュース

偏見や差別はなぜ起こる?』北村英哉/唐沢穣、ちとせプレス、2018年