手塚治虫先生の驚愕エピソードが満載の『ブラックジャック創作秘話』
全5巻のうち、4巻までは揃えていたのですが何故かラストの5巻だけ買うのを忘れてまして、いつか買いたいなとは思いつつも、なかなか買う機会がなかったんですよね。
ただ、つい先日その5巻を手に入れまして、これにてようやく全巻読み終えることができました。
そこで今回は『ブラック・ジャック創作秘話第5巻』を読んだ感想と、ブラックジャック創作秘話の全巻を通して、改めて思ったことなんかをこのブログで書いていきたいなと思っています。
ブラック・ジャック創作秘話5巻の感想
最後の巻まで手塚治虫はすごかった!!
創作秘話も5巻までくると、さすがにある程度エピソードも出し尽くしてしまったのか、これまでのように手塚先生自身のぶっ飛んだエピソードというのはほとんどありません。
ただ、やっぱり手塚先生はスゴイっすね。今回もさすがと思わせるエピソードがありました。その中でも僕が印象に残ったエピソードを一つ。これは先生の元アシスタントで現在は歯科医師をされている鈴木さんが語っていたエピソードです。
ブラック・ジャックの顔の主線に引いた微妙にちがう2本の線・・・
どちらかを消す指定を手塚先生は忘れていたのです。
引用元:『ブラック・ジャック創作秘話5巻』p104 著者 宮崎 克 秋田書店
当然、アシスタントはどっちの線を消せばいいかわからないから手塚先生に「どっちの線を生かしますか?」って聞くわけですよね。勝手に判断しちゃまずいから。
でも、手塚先生はパッと答えられない。「うーん、こっちかな?それともこっち?」みたいな感じでかなり悩むわけです。
これ何気ないエピソードなんだけど、すげぇなぁと思うんですよね。だってあの手塚治虫ですよ?漫画界の神様が、たかが線一本であーでもない、こーでもないって悩んでいる。
あれだけすごい人ならパッと「じゃあ、こっちで!」って即決しそうじゃないですか?でも、そうじゃない。どっちの線がよりこの場面に適しているのか、キャラクターの表情を活かせるのか?っていうのを考えて妥協しないわけです。
もう一個、これも鈴木さんが語っていた線に関するエピソードを。
ある日の深夜、手塚先生がいきなりトレース台を出してきて何かを描き始めたんだそうです。
※トレース台というのは、絵の原稿を複写するための台のことです。複写したい原稿をトレース台の上に乗せて、その上に薄い紙を載せることで原稿を複写することができます。
「何を描いているんだろう?」と鈴木さんが先生の方に目を向けると、先生はディズニーのバンビ黙々とトレースしているわけです。
なぜ、手塚先生はバンビのトレースをしていたのか?鈴木さんも直接本人から聞いたわけではないとおっしゃっていましたが、おそらく「線の調子を整えていたんじゃないか」とのこと。
アシスタントとか駆け出しの漫画家の人がこれをやるならなんとなくわかりますよね。ただ、これを手塚先生がやってるところが驚きなわけですよ!!どんなに、すごい漫画家になっても、基本的な部分を大事にする。そのためには、地味な反復練習を黙々と繰り返す。
手塚先生っていうのは確かに才能の固まりではあったんだろうけど、こういう地道な努力なくしてあれだけの作品を残すことはできなかったんだろうなぁとしみじみ思うわけです。ぶっ飛んだエピソードもすごく好きだけど、個人的にはこういう地味な努力家としての先生のエピソードもすごく好きですね♪
ブラック・ジャック創作秘話全巻読み終えて改めて思ったこと
手塚治虫のマンガへの情熱はすさまじかった!!
ここからは『ブラック・ジャック創作秘話』を全巻読み終えての感想です。本作では手塚先生のぶっ飛んだエピソードが多数登場したわけですが、端的に
「手塚治虫の漫画への情熱は異常、いや狂気である」
そう言ってしまってもいいレベルだったと思います。おそらく今の漫画家さんに「あれと同じことをやれ」と言っても誰も真似できない。たぶん体調を崩してぶっ倒れるか、逃亡を図るでしょう。そういう意味では手塚治虫という作家は唯一無二のマンガ家であったと思います。
そんで、大変なのがそんな狂気をまとった人間に付き合わされる人たちです。『ブラック・ジャック創作秘話』の数々のエピソードの中にもそんな手塚先生にブンブン振りまわれて右往左往する編集者やアシスタント、その他関係者たちが登場します。
ただ、なんだかんだみんな手塚先生に付き合ってしまう。もちろん、中には仕事だから仕方がなかったという人もいたでしょう。編集者とかは先生から漫画を貰わないと雑誌が発行できないわけですから、何日でも缶詰状態で付き合わざるを得なかったわけですね。
でも、そうじゃない人も本作にはたくさん登場します。きっと、そういう人たちは先生の漫画に対する異常な情熱、狂気にあてられてしまったんじゃないかな?あてられたというか、伝染したといってもいいかもしれない。
そんな手塚治虫先生の情熱的な現場と、その熱が伝染した人たちの仕事現場を本作を通じて覗き見ることはとても刺激的な一時でした。狂気をまとった人たちを見るのは面白い。ただし、遠目からに限りますね(笑)僕がもし、編集者だったらおそらくメンタルやられます(^^;
改めて手塚先生の作品を読みたくなった
本作は創作秘話ということで、どちらかというと「手塚先生や周りの人たち」にフォーカスをしています。
ただ、この『ブラック・ジャック創作秘話』を読んでるとこう思うんですよ。
「こうまでして手塚先生が描きたかったものって何なんだろうか?」
って。あれほど情熱的に、殺人的なスケジュールで作品を残し続けた手塚先生は一体何のためにマンガを描き続けたのか?ってね。段々と先生から、先生の作品に興味の対象が移っていくんです。
僕はブラック・ジャックとか火の鳥みたいなメジャー作品は読んでますが、まだまだ未読の作品も多い。そういった作品を少しずつでもいいから読んで、手塚先生がマンガを通して伝えたかったのは一体何だったのかな?亡くなるまでペンを持ち続けたのはどうしてなのかな?それを先生の作品を通じて改めて自分なりに考えてみたいなぁと思いました。
まとめ
そんなわけで今回は『ブラック・ジャック創作秘話』の5巻を読んだ感想と、1~5巻までの全巻を読んで思った事を書いてみました。
おそらくこのブログの読者の方の中には、手塚治虫先生の作品を読んだことがないっていう人もいると思うんですよね。マンガの神様っていうことは何となく知ってても、作品までは‥‥‥って感じなんじゃないかな?まぁ、先生が亡くなってもう30年近くたつので仕方がないっちゃ仕方がないとは思います。
そういう人は、まず本作を通して「手塚治虫というマンガ家の情熱、狂気」に触れてみてほしいです。ほんの数十年前に、漫画界にはこんなぶっ飛んだ人がいたということにまず驚くでしょう。その情熱、狂気は漫画を通じてでもビシビシと伝わるはずです。そして、もし先生に興味を持ったなら、今度は先生の作品も読んでみてほしい。
それこそ、『ブラック・ジャック』なんかはほんとにおもしろいですよ。大人でも十分楽しめる作品だと思うので、まだ読んだ事がない人はぜひぜひ読んでみてください。
それでは今回はこの辺で。