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『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』の感想を書いてみた!

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アメリカとソ連の東西冷戦を風刺した『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』。(以下、博士の異常な愛情)本作はピーター・ジョージの『破滅への二時間』が原作で、1964年に公開されたイギリスとアメリカの合作となっています。

 

 

監督はスタンリー・キューブリック。脚本はキューブリックとピーター・ジョージ、テリー・サザーン。テリーは他にイージー・ライダー(1968)なんかの脚本も担当してます。 

 

本作は第37回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、脚色賞にノミネートしています。

 

※ネタバレありなのでよろしくお願いします。

 

あらすじ

アメリカ空軍基地の司令官リッパ—准将が、ソ連に対して核攻撃の命令し基地に立てこもってしまいます。命令を受けたB-52戦略爆撃機の隊員たちは、はじめ演習だと思っていたのですが、これが本当の命令であることを確認しソ連へと向かうことに。

そのころアメリカの政府首脳部は、リッパ—が下した命令を知り協議を始めます。即座に爆撃機の帰還を試みますが、爆撃機の通信は暗号によって遮断されていて命令をすることができません。その間にも刻々と爆撃機はソ連へと迫っていました。

対応を迫られた大統領はここでソ連大使を会議室へ呼びだします。大使に直接ソ連の大統領とコンタクトをとらせ今後について協議するためです。ところが、ここで驚愕の事実が発覚するのです。ソ連には攻撃を受けると自爆装置が起動し、地球上に放射性物質が蔓延する皆殺し装置が配備されていたのです。その放射性物質の半減期は93年。地球滅亡のタイムリミットまであとわずか。はたしてアメリカによる核攻撃を阻止することはできるのでしょうか。

 

感想

恐ろしいけどおもわず笑ってしまう。風刺がききまくりの作品!!

この作品で取り扱っているのは東西冷戦であったり核の脅威です。本作が公開される2年前の1962年には、ソ連がキューバに核ミサイルの基地を建設し、アメリカとソ連が核戦争寸前まで至った『キューバ危機』が起こってます。これは何とか回避したものの、その後も東西冷戦はソ連が崩壊するまで続きました。キューブリック監督はその冷戦の真っただ中に、本作を制作したわけですね。

 

まず、この映画の成り立ちが面白い。映画評論家の町山智弘さんによると、この映画の原作『破滅への二時間』はまじめに核戦争の恐ろしさを描いた作品だったそうです。それをキューブリック監督はコメディとして撮ろうと思ったと。なぜか?欧米人には嫌なことこそ笑おうという感覚があるからとのこと。確かに、核戦争で世界が滅ぶなんて人間にとっては最悪の出来事です。その最悪の出来事だからこそ笑い飛ばしてしまおうというわけですね。

 

では、どうやってこの作品をコメディにしたのか?それは登場人物たちをトコトン馬鹿な存在として描くことで成立させています。

 

まずアメリカ政府の連中のイカレっぷりがすさまじい。核攻撃を命じたリッパ—准将は極端な反共産主義者。彼は共産主義者の連中が水道水にフッ素を入れていて、そのせいで「自分がインポになったのは共産主義のやつらのせいだ」という妄想に取りつかれたとんでもない男です。でも、当の本人は大まじめにと信じ切ってるんですね。しかも、そのためにソ連に核攻撃を仕掛けるなんてもうギャグ以外の何物でもないでしょ。

 

バック・ダージドソン将軍は、どうせ攻撃するなら報復される前にソ連を全滅させてしまえと意気込む爆撃大好き人間です。この人も極端に共産主義が嫌いで、ソ連の皆殺し装置が発覚するまでは「ソ連なんてやっちゃいましょう」って感じで何人死のうがおかまいなしの考えでした。しかも、最終的に人類が滅亡の危機に瀕して、地下に逃げなければならないっていう時でも、ソ連から地下の領土を守るんだみたいなことを言ってる。人類より共産主義に勝つことやアメリカン人の命だけを優先しちゃってるという本末転倒も甚だしい思想の持ち主。

 

さらにぶっ飛んでいるのが元ナチスの科学者で、今はアメリカ大統領の科学顧問をしているストレンジラヴ博士。彼は核戦争が起こりそうだというのにやけに冷静かつ楽しそうに話をします。それだけではなく大統領を総統(おそらくヒトラーを呼んでいた時の名残)と呼びそうになり、興奮すると右手を突き上げナチス式敬礼のポーズを取りそうになったりする。おまけに、いよいよ人類滅亡が迫り、放射性物質から身を守るときに人々は地下に避難しなければならないとなったときに、「コンピュータで優秀な人間だけ選抜させればいい」と優生思想をぶち上げます。いやっ、ナチズム全然抜けとらんやないかい!!とツッコミを入れたくなる言動だらけです。

 

一方、そんなアメリカに対してソ連はというと攻撃されたら自爆して、人類を滅亡させる皆殺し装置を作ってしまうというこれまたイカれた存在として描かれてるんですね。

 

とにもかくにもここに出てくる人たちはっきり言ってバカばっかりです。お前ら正気なのか!?としか思えない言動ばかり。それが政府の中枢にいる人たちなわけで、それがもうおかしくてしかたがない。しかも映画評論家の町山さん曰く、ストレンジラブ博士やバック将軍は、実在の人物の背景や思想を組み合わせたものであると言ってます。もちろん、フィクションではあるしかなり極端な形で表現されてはいるけど、そういう偏った思想やかつて人類の敵とみなしていたナチスのような思想の持ち主がアメリカだったりソ連の中枢にいるんだぜ、恐ろしくて笑っちゃうよねというのをキューブリックはこの『博士の異常な愛情』という作品で描いているというわけです。

 

一人三役こなすピーター・セラーズの怪演に注目!

本作ではピーター・セラーズがマンドレイク大佐、マフリー大統領、ストレンジラヴ博士を一人で演じています。ちょっと気弱なイギリス空軍大佐のマンドレイクの時はイギリスなまりの英語。まじめなマフリー大統領の時はアメリカ英語。そして、怪しさ満点のストレンジラヴ博士の時はドイツなまりの英語でしゃべっています。なかなかの無茶ぶりですけど、ピーター・セラーズはキューブリックが監督した『ロリータ』(1962)にも出演していますから、きっと信頼が厚い役者さんだったのでしょう。

 

それにしても、見た目も性格も全く違う三人を同じ作品の中で演じ分けるというのはすごいですよね。恥ずかしい話ですが僕ははじめてこの映画を観た時に、ピーター・セラーズが三人を演じてるの気づかなかったです。特に、ストレンジラヴ博士なんて他の二人と表情から話し方、挙動まであまりにも違いますからね。そういう役を演じ分けられるセラーズの演技にもぜひ注目してみてください。

 

まとめ

今回はスタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』を紹介してみました。

 

「人類ってほんと馬鹿なことばっかやってるよね」という本作は風刺がききまくっていて、とても僕好みの作品でした。ちょっと真面目で息苦しいさを感じる人はこう言う作品をみて「みんなバカばっかじゃん」と笑い飛ばして、ちょっと肩の力を抜いてみるのもいいかもしれません。辛い現実、嫌な現実が目の前にある時こそ笑い飛ばしましょう!!

 

※この映画の雑学をもっと詳しく知りたい方は、YouTubeの町山智弘さんの解説をご覧ください。映画をさらに楽しく観ることができるはずです。

 

『博士の異常な愛情』<予習編>https://www.youtube.com/watch?v=mFpVMeIDgSo&t=626s

『博士の異常な愛情』<復習編>https://www.youtube.com/watch?v=Uve4aj5G3kU&t=43s