エンタメなしでは生きてけない!!

これは面白い!!これは人にすすめたい!!そんなエンタメ作品の紹介をしていきます!

『夕凪の街 桜の国』原爆をテーマにしたいつまでも読み継がれるべき作品でした!!

※このブログはアフィリエイト広告を利用しています。記事中のリンクから商品を購入すると、売上の一部が管理人の収益となります。

こうの史代さんと言えば、戦時下の広島の呉を舞台にした『この世界の片隅に』の作者として有名ですが、実はその前にも広島を舞台にした作品を描いてるのをご存知でしょうか?その作品が今回紹介する『夕凪の街 桜の国』です。

 

本作はタイトルにもある夕凪の街編と、桜の国編(第一部、第二部で構成)にわかれています。夕凪の街が1955年の広島、桜の国の第一部は1987年の東京、第二部が2004年の東京と広島を舞台にしており、戦争終結後も戦争や原爆の影響を受けながら生きた普通の人たちの生活を描いています。

 

※ややネタバレアリです。

 

原爆が普通の人たちの人生に及ぼした影響を教えてくれる

広島に原子爆弾が落とされたのが1945年の8月6日。その8月から12月まで原爆の影響でなくなった人たちは9万人とも12万人とも言われていたそうです。ただ、原爆による被害はそれだけではありません。原爆の熱線に大量に含まれる放射線によって白血病や癌になる人が出てきてしまったんです。たとえ、原爆からの死は免れたとしても、ある日突然病魔に襲われてしまうわけです。また、自分だけが生き延びた事への後ろめたさも抱え、肉体面だけでなく精神面でも苦しんでいた人たちが大勢いたとのこと(広島市への原子爆弾投下 - Wikipediaを参考)

 

夕凪の街編に登場する平野皆実はまさにそんな被爆者としての人生を歩んできた人です。自身は原爆で死ぬことはなかったものの父親、姉、妹は死んでしまいました。街に大勢いた被害で苦しんでいる人たちを助けられなかったこと、自分だけが生き延びてしまったこと、幸せを願うほど被爆した地獄のような日の記憶がよみがえってしまう。彼女は精神に大きなトラウマを抱えているわけです。それだけでなく物語の最後には彼女にさらなる悲劇が訪れます。もうこれはフィクションとわかっていても涙なしでは読めないというか、自然と涙があふれてしまいました。きっと当時の広島では彼女のように肉体的にも精神的にも大きく狂わされた人がいるのだろうなと思うと胸が張り裂けそうになります。

 

桜の国編の一部と二部を通して石川七波という女性の日々を描きます。七波は戦争や原爆による被害を知らない世代。でも、戦争や原爆の影は彼らにもつきまとうんですね。七波には凪生という弟がいますが、彼は被爆者二世ということで付き合っていた東子の両親から交際を反対されてしまうんです。これは被爆者や被爆者二世に対する偏見からくるものでしょう。戦後、被爆者は放射能を移すおそれがあると思われ差別を受けてきたと言われていますし、被爆体験がある人は就職できないこともあったそうです。そうした偏見はおそらく時代が経っても人々の中に「被爆者や被爆者二世は危ないのでは」といったイメージとして残り続け、それが東子の両親が東子と凪生との交際を反対することに繋がったのだと思います。

 

このように本作は原爆が直接人々に与えた影響や、直接ではなくても間接的に後世の人たちに及ぼした影響の大きさについて教えてくれています。原爆の恐ろしさについて頭ではわかっていたものの、僕自身は被爆者や被爆二世の知り合いはいないし、やはりどこか過去の出来事であり他人ごとと思っていた部分があることは否めません。でも、本作に登場する人々の人生に触れることで、自分にとって原爆というものがよりリアリティのある者として考えられるようになった気がします。この素晴らしい作品を生み出してくれたこうの先生にはお礼をいいたいぐらいです。

 

この世界の片隅には本作がなければ生まれなかったかもしれない

こうの先生はこの『夕凪の街 桜の国』のあとに『この世界の片隅に』を描くことになります。そこには先生のこんな思いがあったそうです。

 

「最初、こうのさんはとにかく不安でしょうがなかった。描いちゃいけない世界に踏み込んでしまった、体験者でもなく、語るべき立場でもないのに、という……。単行本になった後も“原爆作家”ととらえられることには居心地の悪さを感じていたようです」

引用元:3つ星マンガ、「現代版サザエさん」に高評価|アート&レビュー|NIKKEI STYLE

 

原爆作家として見られたくないということもあって、『この世界の片隅に』では原爆の描写は限定的で、主に戦時下に生きる普通の人々を描いているんですね。

 

「それで原爆以外の死、戦争全体にもう1回向き合わなければバランスが取れない、と次回作『この世界の片隅に』(漫画アクションで06~09年に連載。単行本3冊発売中)を描いたんです。

引用元:3つ星マンガ、「現代版サザエさん」に高評価|アート&レビュー|NIKKEI STYLE

 

広島を描くにあたって象徴的な原爆をテーマにした作品を作ったけど、自分は決して原爆作家ではない。だったら、今度は戦争というもっと大きなテーマを扱うことで自分の作家性を限定されることを避けた。その結果、あの名作が誕生したわけです。そう考えるとこの『夕凪の街 桜の国』という作品がなければ『この世界の片隅に』はもしかしたら生まれなかったのかもしれないし、こうのさんの作家人生における重要な作品だったと言えるのではないでしょうか?

 

まとめ

今回は『夕凪の街 桜の国』という漫画を紹介してみました。本作は100ページ足らずの短い物語ですが、これほど原爆の悲劇や負の影響をわかりやすく描きつつも心を揺さぶる作品は他にないと思います。『この世界の片隅に』同様にいつまでも読み継がれるべき作品だと思うので、興味がある方は是非ご覧になってみてください。