映画館で観ればよかったと思う作品ってそんなに多くはないかなーと思うんだけど、先日NHKで放送されていた『この世界の片隅に』は「うわぁ、映画館で観ておけばよかった・・・」とちょっと後悔したレベルでした。
小さいテレビ画面で観てもあれだけ心を揺さぶられ感動するのだから、はたして映画館で観たとしたらどんな感覚を抱いていたのか?いやっ、もちろん作品の中身は変わらないわけだけど、映画館の大画面が与えてくれる臨場感や質の高い音響の中に身を投じたらはたして?そんな想像をしたくなっちゃう作品だったわけです。うん、やっぱり面白そうな映画は映画館で観るべきだなーと。
そんなわけでいまさら感はありますが『この世界の片隅に』を観て思ったことなんかをつらつらと書いていきたいと思います。
※ネタバレありです。
あらすじ
まずはざっくりとしたあらすじを。
主人公は広島市江波というところで生まれ育った浦野すず。すずさんは1944年、18歳の時に戦時下の中、広島市から同じ広島県の呉市にある北條家にお嫁に行きます。戦争は激しさを増し食料や物資が不足する中でも、すずさんや北条家の人々はどうにか日常生活を送っているのでした。
徹底的にこだわった、当時の人たちのリアルを再現すること
この作品を観ていてまず思ったのは、すごく細かくあの当時のことを再現していて、舞台となった広島市や呉市の街並みから人々の服装、しぐさ、生活様式までが観ているこちらにとって違和感なく入り込んでくるってことです。違和感がないんですよ。ここまで自然に受け入れられるのはなぜだろうかと思ったのですが、どうやらその背景にはこの映画の監督を務めた片渕さんの綿密な取材があったそうです。
映画の原作は、広島出身のこうの史代さんの同名漫画。原作にほれこんだ片渕監督は、たった独りで制作準備にとりかかった。6年がかりで写真など数千点の資料を集め、何度も広島に通いながら、平和記念公園となっている場所にかつて存在した「中島本町」の住民たちの証言を集めた。
6年がかりってそう簡単にできるもんじゃないですよね。この準備期間だけでも監督の作品に対する思いがひしひしと伝わってきます。
もちろんここまでするってことはある狙いがあるわけですよね。それは「すずさんをはじめ、登場人物たちが本当にいたのではないか」と思わせるってことです。観てる人たちがこんな人たちいるはずないじゃんと思っちゃったら、もうその作品には入り込めませんよね。そうならないための綿密な取材による街並みや、ちょっとした風景から人々の服装、生活習慣までしっかり再現している。
そうやってすずさんたちの存在にリアリティを与えることで、彼らが巻き込まれた戦争というものもリアルに感じてもらえるようになっている。
絵柄からとてもほのぼのした作品にみられがちだけど、その辺の徹底的にリアリティにこだわった部分っていうのはこれから観る人にはぜひ注目してほしいなぁと思います。
色彩豊かで温かいからこそ、戦争の残酷さを思いしる
リアリティにこだわった本作ですが、絵はとても色彩が豊かで温かみのある形になっています。それは思わず戦争映画であることすら忘れてしまうぐらいで、そのふわっとした感じには何かこう癒しすら与えられるような感じがしました。
そこはやっぱり戦場を描いた作品ではなくて、あくまで「戦時下の日常を描いた作品である」っていうのが大きいんだろうなと。基本的には戦争中であろうとも人々の生活はずーっと戦争にとらわれているわけではないんですよね。頭の上には戦闘機が飛んでるし爆弾も落とされる。でも、それはずーっとではない。頭上で戦争が終わればそこから次の戦闘まで人々は日常に戻っていく。その日常には自然、建物、人などの色が溢れています。
でも戦争はそんな日常から色を奪ってしまうんですよね。空爆で廃墟とかした街って一気に色が失われてしまうんです。映画でも描かれていたけど、そのあまりの変化にショックを受けました。
ああ、そうかと。戦争というのは色々なものを奪っていくし、街から色をなくしてしまうのだなと。
映画の大半が鮮やかで優しくて温かみのあるからこそ、そこに暗い影を落としてしまう戦争というものの悲惨さや虚しさみたいなものも改めて感じました。
のんさん素晴らしい!!もっと色々な作品に出てくれ!!
また主人公すずさんの声を担当したのんさんがいいんですよねー。すずさんって基本的にちょっとおっちゃこちょいで天然入ったキャラなのですが、その感じをのんさんはすごく違和感なく演じてるんです。彼女の声を聞いてるだけでも、なんだかほんわかした優しい気持ちになります。
かといって、単なる天然キャラというだけじゃなくすずさんが抱いた悲しみや怒りもしっかり表現できていて本作を観ながら「のんさんすげぇな………」って素直に思いました。他の役者さんだったら誰がすずさんを演じられるかな?なんてことも考えたんだけど、ぜんぜん想像ができない。もはやすずさん=のんさんという感じでしっくりハマってたなーと。
僕はNHKの朝ドラ『あまちゃん』で初めて彼女のことを知りましたが、そこからこんな風に成長したんだなーとしみじみ。色々な事情があるみたいですがもっと露出が増えてほしい役者さんだなと思います。
それでも生きることを選んだすずさんたちに背中を押してもらえる
戦争というのは決して美談で済まされるような出来事ではなく、時に人々に立ち直れないぐらいの深い傷を与えたり、たくさんの悲劇を生みだすものです。それは、本作の主人公すずさんにとっても例外ではありません。
すずさんも戦争でたくさんの大切なものを失いました。おそらく当時の人たちの多くも何か自分の大切なものや特別なものを失ったはずです。もしかしたら絶望に打ちひしがれ生きることを諦めてしまった人もいるかもしれない。僕はその選択を否定できません。戦争を体験したことがない僕でも、当時の人たちが失ったものの大きさを考えるときっと、悲しみや絶望といった感情が多くの人たちの心にまとわりついて離れなかったであろうと想像できるからです。
でも、すずさんは生きることを選びました。生き残った多くの人たちも生きていくことを選びました。
そこに「お前も生きろ」という説教臭さはありません。ただ、すずさんや登場人物たちの姿を見ているだけで自然と背中を押してもらえて、前を向くことの大切さに気付かせてもらえる気がします。
いい作品というのはきっとこうやってじんわりと観た人に影響を与えていくものなのだなぁと思いました。
まとめ
というわけで、今回は映画版の『この世界の片隅に』を観た感想を書いてみました。
何回も見たいと思う作品はそうそうありませんが、本作は繰り返し観たいと思わせてくれる作品でした。
観て損はない作品だと思うので、興味がある方は是非一度ご覧になってみてくださいね♪