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『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』過去の栄光に取りつかれた男の苦悩と再生の物語

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今回紹介する映画は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』です。2014年にアメリカで公開、日本では2015年に公開された作品です。

 

 

監督は『バベル』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。主演はバットマンやバットマンリターンズでバットマンを演じたマイケル・キートン。他にもエドワード・ノートン、エマ・ストーン、エイミー・ライアン、ナオミ・ワッツなどが主演しています。

 

ここからは本作の概要やあらすじを説明していきます。

 

主人公のリーガンはかつてバードマンというヒーローを演じ一世を風靡したハリウッド俳優。だが、その後はヒット作に恵まれずにいた。みんなが知っているのはバードマンを演じた俳優であるということで、リーガンはそんな自分の存在価値を信じられずにいた。私生活でも妻と離婚をし、娘のサムは薬物におぼれており不仲である。そんなリーガンだったが自分の存在価値を取り戻すために、ブロードウェイの舞台で劇を行うことを考える。題材はレイモンド・カーヴァーの短編小説『愛について語るときに我々の語ること』リーガンが俳優を目指すきっかけになった作品だ。自らが演出をし主演も務めることで舞台に活路を見出そうとする。本公演前のプレビュー公演は目前。はたしてリーガンは無事舞台を成功させ、自分の存在価値を示すことができるか。

 

ここからは、本作を観た感想や作品の雑学などについて語っていきます。

 

※ネタバレアリなのでよろしくお願いします。

 

感想

あがくおじさんの姿は情けなくもカッコいい

リーガンは過去の栄光に縛られまくってます。そして、私生活でもいいことがなくてメチャメチャ病んでます。どれぐらい病んでいるのかというとバードマンの声が頭の中に聞こえてきたり(幻聴)、バードマンが自分の後ろで語りかけるような絵が見えちゃったり、まるで超能力者のように自分で触れもせずに物を飛ばしたり、空を飛べるという妄想を抱いていたりするわけです。ぶっちゃけはたから見ると相当ヤバい人なんですよね。自分はこんなはずじゃない。自分にはもっと価値があるはずなんだと自意識だけは相当高くなってしまっているんだけど、現実がそれに追いついてこない。

 

それでリーガンは一発逆転を狙ってブロードウェイで舞台をやることを思いついたわけですね。これどうでしょうか?自分の存在価値を再び世間に認めさせるために舞台をやる。承認欲求にまみれてますよね。彼のこの姿を見て「おっさん痛いわ・・・」と軽蔑する人もいるかもしれません。作中でもそんなリーガンの思惑は見透かされていて、娘のサムには「目的は芸術じゃなくて存在のアピールでしょ!!」なんてドストレートな指摘をされてます。しかも、それに対して言い返せず黙りこくってしまうのがまた悲しいわけです。まぁ、図星だからですよね。ああ、リーガンちょっとぐらい言い返してよ。

 

ただ、リーガンが承認欲求に捉われてしまうのも無理ないのかなとも思うんですよね。数十年経っても人々から未だに「バードマンだ!」と声を掛けられるということは、相当な認知と人気があったということです。きっと当時の彼の中には「俺ってすげぇ」という意識が少なからずあったはず。そんな絶頂期を経験した人がそれ以降パッタリと露出が減ってしまったとしたら、その落差っておそらく僕らの想像を絶するものだと思うんです。見えてる景色がガラッと変わってしまったのではないかと。

 

そんなかつてのスターが「もう一度世間に自分の存在を認めさせたい」と思うのは不思議なことではないでしょう。確かに60代のおじさんが「俺を認めてくれ!」と承認欲求にまみれ周りを巻き込みながらあがく姿はちょっと情けないかもしれません。でも、今の現状をどうにかしようと動いている姿は情けないけどカッコよくもあると思うんですよね。

 

劇中のリーガンの姿はきっと彼と同じように今の現状をどうにかしたいという人の共感を集めるだろうし、情けなくてもやってやるんだと背中を押してもらえるはずです。

 

承認欲求にまみれた者の行きつく先を学べる

リーガンは間違いなく他者から承認されることを目的に舞台に取り組んでいました。それが彼を苦しめてたんですよね。「他者から認められたい」「他者から尊敬されたい」彼の頭にあるのは誰かから自分が認められることばかり。妻と離婚したのも、娘のサムが彼と距離を置いているのも今の恋人との間がうまくいかないのも、「自分が認められること」が第一で他者をないがしろにしてしまったからですね。

 

もちろん「他人から認められたい」という思いを持つこと自体は悪くないと思います。心理学者のマズローも人間には5段階の欲求があり下から4つ目に承認欲求があると言っています。僕自身も他人から認められて嫌な気分はしないし、きっとこれを読んでいるあなただってそうでしょう。承認欲求は誰にでもあるものなんです。

 

ところがその承認欲求に捉われてしまうと本作の主人公リーガンのように苦しくなります。なぜなら彼は「他人から認められていない自分はダメなやつ」という考えに陥っているからです。つまり、自分の存在価値を他人ありきで考えてしまうんですね。そうなると常に他人からの評価が気になり、他人と自分を比較します。これほど苦しいことはないですよね。自分の存在価値を他人に決められてしまうのですから。

 

本作ではそういう承認欲求に捉われた者の行きつく先を提示している作品だと思います。リーガンが承認欲求から解放されたのかどうかも含めてぜひラストまで観てほしいなぁと思います。

 

多方面への皮肉がたっぷりこめられている

映画というのは少なからず監督をはじめとした作り手の想いが反映されているものです。というか、反映されていなければ面白くないし映画を作る意味というのもあまりないと思います。そういう点で本作では特に映画業界に対する皮肉が込められていて、個人的には面白かったです。

 

例えばスーパーヒーローものばかり観ている観客や、売れるからと言ってそういう作品ばかりを作っている業界への批判とか。あるいは本作のリーガンのように、なんとなく有名になっちゃった俳優が芸術家としての地位も手に入れるために安易にブロードウェイのような伝統ある舞台で劇をやろうとすることとか。あるいは、作品や俳優に対してありきたりな言葉を用いて批判をすること批評家とか。これはきっと監督や作り手たちの意見であり切実な思いなんでしょうね。それをセリフを通じて僕らにも伝えているわけです。もちろん、この意見には賛否両論あると思うし僕もすべてに対して「その通り!!」とは思いません。

 

例えばリーガンは自分たちの舞台を批評するタビサという女性の批評家に対してこんなことを言います。(一言一句正しくはないかもしれません)

 

「批評を書くだけで何ひとつ代償を払わない。何の危険もない。リスクはゼロ」

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

 

つまり、批評家というのは自分では金も出さないし作品も作らないし他人から批判されることもない。ただ、人が作った制作物に対して文句を述べるだけで金がもらえるし、失敗してお金も評価も失うようなことがなくていいよな(極端な解釈かも知れません)この言葉に対して「確かに!!」と思う人もいるでしょう。中には「批判するなら、お前が作ってみろや!!」という意見もありますよね。

 

ただ、これに関してはライムスターの宇多丸さんが言っていた「いやっ、批評家だって批評を批評する人たちから厳しい批評にあってるからね!!」という意見がすごくしっくりくるなと。文章なり言葉なりで発信した時点で、それは一種の創作物として誰かに批評される可能性があるわけですよね。

 

もちろん中には揚げ足取り的な批評をしたり、単に気に食わないという理由だけで誰かの創作物を批判するような人もいるかもしれません。(本作のタビサはちょいとそういう傾向にあったから個人的には嫌だなと思いました)でも、そうじゃなくて作品を観て「明らかにおかしいんじゃない?」ということを述べたり、「ここはちょっとわかりづらいんじゃないか?」というところを指摘するのすら否定してしまうのは違うんじゃないかなと。そういう観る側のレベルが上がるような気付きだったり、作り手の矛盾を指摘していくのが批評家の役割じゃないですか。そうすることで制作側もレベルが上がり、双方が高めあうことでさらにいい作品が生まれていくのが理想的ですよね。

 

そういう点で僕も批評家の人たちの役割って大きいと思うし、批評家がいなかったら緊張感が損なわれてしまう気がします。批評と難癖や単なる否定をごちゃまぜにしてしまうのはよくないんじゃないかな。

 

雑学

俳優たちの経歴を知るとより楽しめる!!

バードマンを演じるマイケル・キートンって実際には1989年の『バットマン』と1992年の『バットマンリターンズ』でバットマンを演じてるんですよね。バットマンとバードマンってもうまさにそうやんって突っ込みたくなりますね。しかも、作中でキートンが演じたリーガンは「俺のピークは1992年だ!!」みたいなことを言ってるんですよね。これはバットマンリターンズの年ですよね。もちろんマイケル・キートンはこの間たくさんの作品に出てるし、有名な作品もあるんだけどバットマンでは主演だしやっぱりインパクトがあるわけです。

 

他にもエドワード・ノートンが演じるマイクは舞台をなめんな!モード全開の人ですが、彼のキャリアは舞台からですし、ナオミ・ワッツ演じるレズリーはこのお話の中でブロードウェイ初出演を飾るいわば苦労人なわけですけど、ナオミ自身も下積みが長くてなかなか評価されない時期が続いた苦労人だったんですね。

 

単に作品としてみるよりも、俳優のことや彼らが歩んできた経歴なんかも知ると「おぉすげぇ!!」とより楽しめる作品の一つなのではないかと思います。

 

まとめ

今回は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』の感想を書いてみました。

 

けっこうセリフは多いし、地味っちゃ地味な作品なので好みは別れるかもしれません。ただ、個人的にはリーガンという男の苦悩する姿からは良くも悪くも学べることが多いのではないかなと思うので、興味がある方は是非ご覧になってみてください!!