ずーっと読みたかった『健康で文化的な最低限度の生活』という漫画をつい最近読みました。
タイトルを見て「どういうマンガ?」と思う方もいるかもしれないので、最初に作品の説明をしていきます。
主人公の義経えみるは新卒で公務員に就職をした女性です。彼女は福祉事務所に配属され生活保護に関わるケースワーカーという仕事につきます。
本作は生活保護受給者の視点、そして彼らを支援、指導をする福祉関係の人たちの視点から生活保護のリアルな現場について語られている作品です。
タイトルの『健康で文化的な最低限度の生活』というのは日本国憲法25条の生存権からとられているんですね。
きれいごとではない生活保護を支える現場
テレビあるいはネットなどを通じて「生活保護を受けています。」という人の生活をすることは時々あると思います。本作ではそういった受給者だけではなく主人公や周りのケースワーカーの働く様子も知ることができます。その過程で受給者、あるいは受給を希望される方にケースワーカーがどういう対応をして、どういう段階を踏んで支援がされていくのかが非常にわかりやすく描かれていると思います。
最初に読んだ感想は「こりゃ、福祉の現場は想像以上に大変だな‥‥‥。」ということ。
主人公を始めケースワーカーの人たちは受給者の方が「本当に受給資格があるのか?」「他に頼れる親戚などはいないのか?」「受給後の就労に向けて努力はしているのか?」といったことを面談したり、電話で近況を聞いたり、本人の自宅を訪ねたりして個々の状況を把握していきます。
それが一人ならまだしも、数十人とか受け持つこともあるわけですからね。本作の主人公も様々な世帯や受給者の人たちを担当することになりますが、それぞれ世帯ごとに状況も違いますし、本人の病歴、意欲なども違うわけですよ。そういった別々の状況にある人たちについて試行錯誤し迷い時には失敗しながらもしっかりと対応をしようという主人公の姿に共感しますね。
ただ、やっぱり生活保護の現場は厳しいというのも感じます。例えば本作でも受給者の方で「死にます」といって主人公に電話をかけてくる人がいて、家族からも「ほうっておいていい。」と言われていたにもかかわらず実際に自殺をしてしまう。あるいは目の前で相談者の人から「死ね。」と言われてしまうようなシーンが出てきます。フィクションではあるけど実際にありそうな事例ですよね。
これはもう厳しいというか新人が受け止めるには過酷ですよね。正直僕が新卒でこういう状況に陥ったならあっという間に心が折れてしまいそうです。
しかも主人公を始めケースワーカーの人たちというのはみんながみんな福祉の道を志しているわけではないんです。みんな普通に自治体の試験を受けて入った一般職の人たちなわけです。それが配属によってたまたま生活保護を担当するようになったにすぎません。にもかかわらず辛らつな言葉をかけられたりしたらそりゃへこみますよね。
皆が皆望んで配属されたわけではないため福祉事務所で働いている人たちの意識も様々です。丁寧に対応をする人もいれば、電話などで相談者から辛らつな言葉をかけられたりした後に「死ね。」とか「クソが。」みたいな言葉を吐く職員の方の姿も描かれています。
まぁ皆が皆、聖人君子なわけではないだろうし、福祉職員だってひどいことを言われればムカつく時もあるので思わずそういう言葉を言いたくなることもあるのでしょう。文句もしょっちゅう言われるストレスのたまる仕事だろうなぁと本作を読みながらしみじみ思ってしまいました。
これまで以上に自治体の職員さんには丁寧に接したいですね。せめて余計なストレスは与えないように。
生活保護といっても十人十色
本作では主人公の勤める福祉事務所に様々な相談者の方がやってきますが、まぁ生活保護を受けたい人、あるいは現在受けている方の状況っていうのはほんっとに十人いれば十人違うっていうのがよくわかります。
DVを受けて夫から逃げてきた人、親から虐待を受けて頼れない子供、アルコール中毒になってしまった男性などなど、生活保護に頼るまでにたどってきた経緯はそれこそ人の数だけ違うのではないでしょうか?
本作で登場する家庭もフィクションではあるけど「こういうケース実際にあるんだろうなぁ。」という人たちがたくさん出てきます。
その中でも特に印象的だったのが祖母、母、そして兄と妹の4人家族の話。祖母がヘルパーさんに介護をしてもらっていて母はシングルマザーのため生活保護に頼っているわけです。
主人公はその家族を担当することになるんだけど、実はお兄さんの方が母親にもそして福祉事務所にも申告することなくアルバイトをしていたことがわかるんですね。
この家族は生活保護を満額うけていたため、それが子供が稼いだお金であってもちゃんと申告をしなければいけないんだそうです。そんで、どうなったかというと結果的に、生活保護を受け始めてから息子がアルバイトで稼いだお金は全額没収されるということに。いやはや、制度としてあるのはわかるけどこれは非常に厳しいよなぁと思いました。
そんでそのことを主人公は家族に伝えに行くんだけど、息子さんが言ったセリフがすんげぇ心に刺さりました。
オレは・・・
そんな悪いことをしたんですか……?
バイト代全額没収されなきゃなんないほど・・・
これって・・・・・・・・・
何の『罰』なんスか・・・?
引用元:『健康で文化的な最低限度の生活』2巻p163~p165 著者 柏木ハルコ 小学館
生活保護を受けているのは息子さんが原因じゃないわけですよ。それどころか、そういう苦しい状況の中でも親に負担をかけまいと、自分でアルバイトをして自分の趣味の音楽活動に関連するものを買っていたんですね。
でも、世帯で生活保護を受けている場合制度上それを申告しないでやってはダメなことなんです。そのことを告げられた時の息子さんの悲壮感に包まれた感じと↑のセリフはほんとすんごく印象に残りました。辛すぎるよ。
ぶっちゃけこの制度だと「じゃあ、働いて稼いでも無駄じゃん。」ってことにもなりかねないよなぁと思いましたね。この息子さんも実際ちょっと自暴自棄になりかけたりもするんだけど、そこはまぁ漫画ということもあって、なんとか主人公の熱意とか制度への理解を母親や息子さんに伝えることで納得してもらえます。でも実際には「もういいや。」ってなってしまう人もいそうですよね。その辺の制度っていうのはもっとどうにかならんもんなのかなー?と思ってしまいました(*_*;僕ならグレるかも‥‥‥。
まとめ
というわけで今回は『健康で文化的な最低限度の生活』という漫画の感想を書いてみました。漫画とはいえ相談者の状況や福祉に関わる人たちの様子が非常にリアルに描かれています。
リアルすぎてちょっと胸が苦しくなってしまうこともあるかもしれないけど、こういうことが今の日本の福祉の現場の現実なんだなぁというのを知るにはもってこいの作品だと思います。興味がある方はぜひご覧になってみてください♪
それではまた!!